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ジクトルテープ75mg効能追加1周年記念全国講演会Webセミナーダイジェストin福岡

ジクトル®テープ75mgは、2022年6月に腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮痛・消炎の効能又は効果が追加され、この度1周年を迎えることができました。これを記念して2023年9月3日、福岡にて『ジクトル®テープ75mg効能追加1周年記念 全国講演会』を開催いたしました(座長:福岡⼤学医学部整形外科 主任教授 山本 卓明先生)。疫学から治療のトピックスまで幅広くご講演いただきましたので、今後の診療に活かしていただければ幸いです。

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経皮吸収型全身性NSAIDs製剤によるNSAIDs潰瘍へのアプローチ

上部消化管疾患におけるトレンドの変遷

 近年、上部消化管疾患において、ヘリコバクター・ピロリ(H.pylori)菌がかかわる疾患は減少しましたが、胃酸分泌能が維持され、さらに食生活や生活習慣の変化、高齢化の進展などを背景に、逆流性食道炎や機能性ディスペプシアなどの酸関連疾患、そして薬剤性消化管障害が増加しています。薬剤性消化管障害には、腰痛症や肩関節周囲炎などの治療薬、そして高血圧症や虚血性心疾患など循環器領域の治療薬が関係しているのではないかといわれています。日本では2025年に団塊の世代が75歳以上となり、高齢化率は2040年頃まで上昇すると予想されており、高齢者における多剤併用に起因する薬剤性消化管障害への対応は、重要な課題の一つです。

NSAIDsの作用と消化管障害

 非ステロイド性抗炎症薬(以下、NSAIDs)は、世界で広く使用されている薬剤の一つです1)。NSAIDsの主な作用機序 はシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害であり、副作用として消化管障害が知られています。このリスクを軽減するためにCOX-2選択的阻害薬が開発されたと考えます。
 以前、われわれはNSAIDsの服用と消化管障害の状況について調査しました。自施設の人間ドックで内視鏡検査を受診し、消化管障害の自覚症状がない人を対象に、内視鏡所見に基づき胃粘膜障害を評価しました。その結果、NSAIDsまたはアスピリンを服用していない群と比べ、胃粘膜障害はアスピリン群で2.6倍、NSAIDs群で2.9倍、両剤併用群で11.2倍に高まりました2)。このことからNSAIDsまたはアスピリンの服用は、胃粘膜障害のリスクを上げることが示されました。なお、日本消化器病学会編集による『消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)』には、エビデンス3-5)を踏まえてNSAIDs服用者においては消化性潰瘍、上部消化管出血のリスクが高まることが明記されています6)
 NSAIDsによる消化管障害の病変は、急性胃粘膜病変(以下、AGML)とNSAIDs潰瘍に大きく分けられます。AGMLは服用開始から早ければ数日のうちに生じ、多くは吐血を伴いますが、病変は浅いため治癒に至ります。一方、NSAIDs潰瘍は慢性の胃潰瘍であり、深い潰瘍が生じるため、湧出性出血や時に動脈性の噴出性出血をきたすことがあります。出血については内視鏡下による止血クリップや焼灼によってほぼ止血は可能ですが、NSAIDs潰瘍の病変は上部消化管に留まらず、小腸粘膜障害が生じる頻度は50%を超えるという報告があります7)。上部消化管粘膜障害の機序はCOX阻害作用に加え、血管内皮における活性酸素の産生の増加、また粘膜内に吸収されたNSAIDsが細胞内に蓄積されることによる直接的な粘膜障害なども影響していると考えられています8)

NSAIDs潰瘍への対応

 NSAIDs潰瘍については、まず患者が服用しているすべての処方薬の種類、用量、投与期間を確認します。NSAIDsにアスピリン、抗血栓薬、抗凝固薬が併用された場合は相乗効果によって消化管障害のリスクが高まり、またスピロノラクトンなどの利尿薬、SSRI、抗うつ薬などとの併用により出血のリスクが高まることが知られています。
 また酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(以下、PPI)の併用の有無も確認します。PPIの併用により上部消化管の出血が抑制される可能性はありますが、PPIは小腸や大腸の粘膜障害には予防的な効果はないとされ、また長期使用では腸 内細菌への影響や副作用についても考慮する必要があります。NSAIDsの選択では、COX-1には胃粘膜保護作用があることが知られているため、『消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版)』ではNSAIDs潰瘍発症の予防にCOX-2選択的阻害薬の使用が推奨されています6)

NSAIDsの薬理作用

 NSAIDsであるジクロフェナクナトリウム(以下、ジクロフェナクNa)の経皮吸収型製剤のジクトル®テープ75mg(以下、ジクトル®テープ)は2021年3月に非オピオイドの癌疼痛治療薬として「各種がんにおける鎮痛」が承認され、さらに2022年6月に「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮痛・消炎」が承認されました。
 NSAIDsのエトドラク、メロキシカム、セレコキシブ、ジクロフェナクNa、インドメタシン、ケトプロフェン、アスピリン、ナプロキセン、イブプロフェンのCOX-2阻害選択性をIC80ratio(COX-1/COX-2)で比較した報告によると、エトドラク23.0、メロキシカム11.0、セレコキシブ 9.3、ジクロフェナクNa 4.3、イブプロフェン 0.4、アスピリン及びナプロキセン0.3、インドメタシン及びケトプロフェン0.2と、ジクロフェナクNaはセレコキシブの次に高いことが示されました9)。この結果から、ジクロフェナクNaは胃粘膜上皮細胞に恒常性に発現するCOX-1よりも、主に炎症部位で発現が誘導されるCOX-2に対する阻害活性が高く、COX-2阻害選択性が比較的高いと考えられます。

ジクトル®テープの臨床評価

 経皮吸収型製剤ジクトル®テープの薬物動態をみると、貼付後に血中濃度は徐々に上昇して有効血中濃度域の定常状態に達し、最高血中濃度が上がり過ぎることなく、有効血中濃度域の範囲で維持されます10)
 こうしたジクトル®テープの特徴を踏まえて、われわれはジクトル®テープと経口剤のロキソプロフェンNaを比較した実薬対照ランダム化比較試験を実施しました。

 対象は健康中高年男女60名で、ジクトル®テープ又はロキソプロフェンNa錠を2週間反復投与し、内視鏡で粘膜障害の有無を評価しました。胃・十二指腸潰瘍発現についてはジクトル®テープ群で27例中1例(3.7%)、ロキソプロフェンNa錠群で30例中5例(16.7%)でした(表1)。内訳はジクトル®テープ群は十二指腸潰瘍1例で、ロキソプロフェンNa錠群では胃潰瘍2例及び十二指腸潰瘍3例でした。副作用の発現割合は、ジクトル®テープ群で6.9%(2/29例)、ロキソプロフェンNa錠群で16.7%(5/30例)でした。ジクトル®テープ群で適用部位発疹、倦怠感が各3.4%(1/29例)であり、ロキソプロフェンNa錠群で発現した副作用は下痢6.7%(2/30例)、上腹部痛、心窩部不快感が各3.3%(1/30例)でした(表2)。

重篤な副作用、投与中止に至った副作用及び副作用による死亡例は認められませんでした11)
 NSAIDsの使用に際しては、消化管粘膜障害に注意することが必要です。ジクトル®テープはCOX-2阻害選択性が比較的高く、薬剤の血中濃度の上昇が緩やかなこと、また経口剤と比べると粘膜への沈着による直接的障害作用がないことなどの薬理学的特性を有し、消化管粘膜障害を軽減することが期待できると考えています(表2)。

参考文献

  • 1)Scheiman JM, et al.: Clin Ther 2010; 32(4): 667-77.
  • 2)Yamamoto T, et al: Int J Clin Pharm Ther 2009 47(12): 722-5.
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  • 6)日本消化器病学会 編: 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南江堂; 2020.
  • 7)藤森俊二 ほか: 日本臨床 2011: 69 (6), 1075-82.
  • 8)平石秀幸 ほか: 日消誌 1995; 92(11): 1817-24.
  • 9)Warner TD, et al.: Proc Natl Acad Sci USA 1999; 96(22): 7563-8.
  • 10)内田英二 ほか: 医薬と薬学2021, 78(6):741-58.
  • 11)深瀬広幸 ほか: 薬理と治療 2023;51(3):341-50.
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疼痛治療におけるジクトル®テープの使い処と適正使用のポイント

経皮吸収型製剤ジクトル®テープの特徴

 皮膚に貼付すると有効成分が全身に作用する経皮吸収型製剤は、言わば「貼る飲み薬」といえます。貼付剤では、有効成分が真皮を通過して筋肉などの皮下組織に届くように設計されていますが、経皮吸収型製剤では有効成分が角質層を通過して毛細血管のある真皮で拡散し、毛細血管に吸収されるように設計されています(図1)1)
 経口剤では有効成分が消化管から吸収されると、門脈を経て肝臓に運ばれ、肝臓で代謝を受けます。これは肝初回通過効果と呼ばれ、その後に肝臓から全身循環に移行します。経皮吸収型製剤では有効成分は皮膚の毛細血管から全身循環に移行し、肝初回通過効果を回避できることが特徴の一つです。

●薬物動態

 経皮吸収型製剤では、貼付すると血中濃度が上昇し、初回投与時では有効血中濃度に達するまで経口剤より時間を要しますが、有効血中濃度領域に達するとその範囲内で推移します2,3)(図2)

●安全性

 NSAIDsについては上部消化管障害に注意し、NSAIDs経口剤の使用は短期・頓用が原則で、長期連用の場合にはプロトンポンプ阻害薬(以下、PPI)の併用を考慮します。経皮吸収型製剤であるジクトル®テープ75mg(以下、ジクトル®テープ)は、1日1回の貼付で、血漿中ジクロフェナク濃度は投与7日目以降に定常状態で推移することが認められています4)
 ジクトル®テープの国内第Ⅲ相臨床試験の長期安全性試験の結果5)を紹介します。腰痛症患者135例を対象に52週間投与し、副作用発現率は36.3%(49/135例)でした。発現率が2%以上だった副作用症状は、適用部位そう痒21.5%(29/135例)、適用部位紅斑13.3%(18/135例)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加3.0%(4/135例)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加が各2.2%(3/135例)でした。重篤な副作用は、出血性腸憩室が1例でした。投与中止に至った副作用は、適用部位そう痒感、適用部位紅斑が各2例、適用部位小水疱、出血性腸憩室が各1例でした。副作用による死亡例は認められませんでした。消化管障害、肝障害、腎障害、心血管イベントは低く抑えられ、腎障害については、BUN、クレアチニンともに投与前と1年目の最終評価時で変化が見られませんでした。

●ジクトル®テープの使い方

 腰痛症や肩関節周囲炎などの痛みは急性期を過ぎると、痛みの質が変容して慢性痛になると考えられ、慢性痛には中枢性感作が関係するといわれています。5年、10年と長期にわたって膝や腰の痛みを訴える患者では、痛みの部位にNSAIDs の貼付剤を使用しても十分な鎮痛効果が得られないことがあり、非炎症性の疼痛と炎症性の疼痛が混在していると考えられます。そのような患者においては、炎症性の痛みに対するNSAIDsと、非炎症性の痛みに対するNSAIDs以外の薬剤を併用します。ただし慢性痛の痛みを完全に除くことは難しく、3 〜4割程度の痛みが残っていても患者には体を動かしてもらうことが大事だとアドバイスします。
 ジクトル®テープは消炎鎮痛剤であり、治療の経過において症状が改善すれば漸減して中止しますが、腰痛症では、まず重篤な脊椎疾患(腫瘍、感染、骨折など)などのred flags6) がないことを確認してジクトル®テープを選択します。症状が改善されない場合はデュロキセチンを併用し、期間限定でトラマドールも使用します。神経症状が見られる場合は、ジクトル®テープにプレガバリンやミロガバリンまたはトラマドールを併用し、改善されない場合はデュロキセチンを選択します。
 肩関節周囲炎では、急性期の強い痛みにはジクトル®テープを使用し、慢性期ではデュロキセチンや弱オピオイドを使いながら肩を動かすリハビリに取り組んでもらいます。夜間痛にもジクトル®テープで対応し、症状が改善したらデュロキセチンのみとし、経過を見ながら減量していきます。

ジクトル®テープの患者指導の要点

 ジクトル®テープ導入のポイントは、患者さんが薬は痛い部位に貼るものと思いがちなため、「貼付剤ではなく、経皮吸収型製剤である」ことを理解してもらうことです。私はジクトル®テープの患者指導箋を用いて患者さんに見せながら、「これは湿布に見えても、皮膚の血管から吸収されて成分が全身に回る薬で す」と説明します。湿布のイラストに×印されている患者指導箋によって貼付剤ではないことを示すことができ、腕にジクトル®テープを貼ったイラストで製剤の大きさもイメージできます。貼付部位については「首が痛くても腰が痛くても今日は腕に貼ってくださいね」「明日は鎖骨の下の辺り、明後日は脇腹に貼ってください」と貼る部位を伝えて説明し、下腹部や脚、腰よりも剝がれにくく血流のよい上腕と胸を勧めています。ジクトル®テープの使用開始から患者さんが効果を実感できるまで約3日〜1週間と考え、患者さんには少なくとも3日は継続して使用して効果を確認するように説明しています。
 また、ジクトル®テープによる副作用の皮膚炎対策として、毎回、貼る部位を変えることが大切です。スキンケアとして、角質を保護するヘパリン類似物質のフォーム剤も処方し、貼った部位に毎日塗布するよう指導します。スキンケアを行うことで、当院では貼付による皮膚症状を予防できている印象があります。
 なおジクトル®テープの処方時には「薬は効かない場合もあります。効かない場合は、神経関連の痛みか慢性痛なので、それに対する別の薬を処方します」と今後の治療方針も患者さんに説明します。患者さんが治療を理解することは、治療に取り組む意欲の支援になると考えます。

参考文献

  • 1)藤井まさ子: 薬局 2013; 64(13): 25-31.
  • 2)中村祐: Prog Med 2011; 31: 1899-905.
  • 3)塩原哲夫,大谷道輝 監:臨床に役立つ経皮収型製剤を使いこなすためのQ&A. アルタ出版; 2012.
  • 4)久光製薬社内資料. ジクトル®テープ承認時評価資料, 健康成人を対象とした単回投与及び反復投与試験.
  • 5)久光製薬社内資料. 腰痛症患者を対象とした長期投与試験.
  • 6)日本整形外科学会, 日本腰痛学会 監, 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 腰痛診療ガイドライン策定委員会 編:腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版) . 南江堂; 2019.
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慢性腰痛の診断と治療 最近の話題も含めて

世界における腰痛の現状と最近の話題

 世界における腰痛の現状は男性より女性が多く、最も多い年齢層は50 〜54歳であり、ロシア、ヨーロッパ、アメリカ合衆国、日本、オーストラリアなどの先進国に多い傾向にあります1)。腰痛患者は世界で2020年に6.19億人といわれ、2050 年には8.32億人に増えると予想されています2)。 国際腰痛学会などで注目されたテーマに、椎間板と腰痛の関連が挙げられます。1967年にDr. Murpheyが椎間板性腰痛を報告し、その後に椎間板変性がみられると腰痛の頻度が高いという報告3)や、腰痛のない集団にも椎間板ヘルニアや変性がみられたと、椎間板性腰痛を否定する報告4)がありました。2023 年に椎間板変性と腰痛との関連は非常に複雑であり、年齢や椎間板変性の高位によっても異なることが報告されました5)。 最近では、椎間板周囲の椎体終板変性であるModic変性が注目されました。Modic変性はタイプ1、タイプ2、タイプ3 に分かれ、特に重要視されているのがタイプ1で、MRIで椎体終板がT1強調画像で黒、T2強調画像で白となります。タイプ1が腰痛に関係がある、ないという報告があり、さらにModic 変性の部位におけるアクネ菌感染が腰痛と関係するのではないか、抗菌薬治療によって腰痛が改善するのではないか、とさまざまな見解が示されました。そういった中で、2019年に椎間板変性、椎間板ヘルニアのModicタイプ1の118名とタイプ2の262名を対象とした前向き二重盲検無作為化臨床研究が報告されました。経口抗生物質を3カ月投与した群とプラセボ群を52週間観察したところ、腰痛症状は群間で差がみられず6)、腰痛における感染の関与については否定されました。
 もう1つのトピックは筋肉と腰痛の関係です。特に高齢者では、骨粗鬆症と筋肉量の低下によって脊椎後弯症が起こりやすく、さらに腰痛を悪化させることが多くあります。その検証に、国内で大規模疫学研究The Wakayama Spine Studyが行われ、腰痛患者796名(平均年齢63.5歳)においてL1/2、L2/3高位の脊柱起立筋に脂肪変性のある群では腰痛のオッズ比が1.05倍と高いことが示されました7)。 さらに筋組織にいて考えます。これまでの定説では、筋組成のアンバランスが慢性腰痛の原因であり、リハビリテーションはそれを改善して腰痛改善に寄与するとされてきましたが、慢性腰痛患者と健常人で背筋の速筋、遅筋の割合は変わらないことが報告されました8-10)。そこで高齢者の脊椎の曲がり、背筋の状況を調べる目的で、千葉大学、北里大学、大阪公立大学において、5,014名(10 〜90歳)を対象に上肢、体幹の筋量、骨密度、脊椎のアライメント、腰痛の程度、生活の質を調査しました。その結果、男性は女性よりも体幹筋量が多く、50歳以降は男性・女性ともに減少しますが、問題は60歳以降では男性の体幹筋量の減少量が女性より大きかったことです。また腰椎と大腿骨の骨密度は全身の筋量と正の相関にあり、YAM値70%の患者では健常な20歳の筋肉量の約70%に低下していました11,12)。これらの結果を踏まえ、腰痛の状態(Log ODI、Log VAS)、背骨の曲がり(SVA)、生活の質(EQ5D)については、体幹筋量23kgが変曲点であることが明らかになりました(図1)13)。つまり体幹筋量が23kg 以下になると腰が曲がり、腰痛が悪化し、ADL障害が生じるのです。

腰が曲がった高齢者では痩せた骨粗鬆症の患者さんが多くみられます。50歳以上で腰が曲がった群の418名と、腰が曲がっていない群の368名(コントロール群)を2年間フォローアップして筋肉量の変化を調べた報告では、コントロール群で体幹筋量が1.1%減少しましたが、腰が曲がった群では2.5倍の速さで体幹筋が減少しました14)。したがって腰が曲がった患者さんに対しては、整形外科領域以外の疾患にも注意し、薬物療法に加えて生活習慣を指導することが必要といえます。 慢性腰痛患者への介入としては、フィジカルのアクティビティの増加、エクササイズ、SedentaryなBehaviorの削減、十分な睡眠、ストレスへの対処、適切な食事などがあります(図2)15)。Sedentaryとは座りっ放しで体を動かさないライフスタイルであり、腰痛の要因になるオッズ比は1.24倍で、小児においても腰痛のオッズ比は1.41倍と、成人よりも腰痛の原因になりやすいことが示されています16)
また運動が及ぼす影響について、1日15 分の運動は14%の死亡率減少、寿命3年分に相当し、さらに1日30分の運動によって死亡率がさらに4%減少したという報告があります17)。慢性腰痛疾患の患者さんも、毎日15分から30分の運動をすることによって長生きできる可能性が示されました。

腰痛治療の今後の展望

骨粗鬆症性の椎体骨折治療では、圧迫骨折がなかなか治癒しないときにセメントを注入することが多くありますが、科学的根拠として確立しているとはいえない状況です。セメント治療と偽手術を比較し、両群で腰痛の状態は変わらなかったという報告もあります18-20)。ただし今後、CT、MRIの画像に基づいて厳密な研究デザインを組み、セメント治療の有効性を検証することは、われわれのミッションの一つと考えています。
薬物治療が無効な難治性腰痛では認知行動療法も行われていますが、千葉大学医学部附属病院の痛みセンターの実績では、新患80人のうち運動器疾患が約52%(41/80人)で、認知行動療法を行っても改善率は約39%(12/31人)でした。ではどういう患者さんが改善しなかったかといいうと、別の研究結果では、言語性IQが低い、多動傾向、受動依存傾向(不満をいいつつも外来には来院し続ける)、被害妄想的、自己中心的などの特性がみられたという報告もあります21)
そこでわれわれは、認知行動療法の適応を事前に予測しようと、簡便なスクリーニング方法を検討し、脳波のアルファ波を指標とした認知行動療法の効果予測技術の開発に取り組んでいます22)。われわれの取り組みが、さらに腰痛治療の可能性を広げることを期待しています。

参考文献

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