2022年12月13日、ジクトル®テープのWebセミナーが実施され、黄金 勲矢 先生(札幌医科大学医学部 整形外科学講座 講師)、前田 和博 先生(まえだ整形外科 院長)、中條 悟 先生(中條整形外科医院 院長)にご登壇いただきました。本コンテンツでは、本セミナーの内容をダイジェストでご紹介いたします。ぜひご覧ください。
痛みは有症期間や発生機序などによって分類できます。
有症期間別では、3ヵ月未満の急性疼痛、3ヵ月以上持続する慢性疼痛があります1)。また、痛みの機序別では、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分けられます1)。侵害受容性疼痛とは、感覚神経末端の自由神経終末(侵害受容器)の有害刺激に対する興奮により発生する疼痛です。一方、神経障害性疼痛は、体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛です。
慢性疼痛を含む疼痛患者さんにおいては、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、さらには心理社会的な要素が関与し合い、痛みを形成しています。患者さんや時期によってこれら3つの要素の程度は異なるため、その時々で痛みの主体となっている要素を判断する必要があると考えます。
慢性疼痛に対するアプローチの方法をお示しします。まずは患者さん自身が疼痛病態を理解し、痛みに対する恐怖やストレスを除去します。そして、運動療法、機能訓練を導入することで痛みが改善していくことが理想の流れです。
一方で、運動療法や機能訓練の導入が難しいケースもあります。そのような場合に、薬物を用いて痛み閾値を上げ、運動療法、機能訓練の導入をスムーズにすることが薬物療法の意義と考えています。
運動療法の指導における工夫について、運動の始め方や運動の種類の観点からご紹介します。
慢性疼痛の患者さんは、痛い場所を動かしたがらないことも多くあります。そのため、患部を無理に動かす必要はなく、無痛部・全身性の運動から開始するようにお話ししています。
運動の種類もさまざまです。慢性疼痛においては、運動の種類による効果に差はないという報告2)や、10分間の快適歩行でも、痛みと身体機能改善に有効であるという報告3)などがあります。これらのことから、慢性疼痛の患者さんの運動療法では、まずは「毎日10分でもいいので散歩をして、日光を浴びて、体を動かしましょう」と指導するようにしています。
また、運動自体が患者さんのストレスになり、運動によって痛みを引き起こす悪循環に陥ってしまったことや、運動療法の導入が難しくなったなどのご経験があるかと思います。
こちらは、慢性腰痛患者さんを対象に、フィットネスゲームを用いて運動療法を行い、痛みと心理的要因に及ぼす影響を調査した報告です。治療開始から8週間後、腰痛および臀部痛(VAS値)が有意に改善し、痛みに対する自己効力感の尺度であるPSEQのスコアも有意に改善しました。このように、楽しみながら運動療法を導入することも選択肢の一つと感じました。
慢性疼痛に対する薬物療法の選択肢の一つに非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)があります。「NSAIDsは炎症部位でのシクロオキシゲナーゼの働きを阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制し、抗炎症作用、鎮痛作用を発揮」4)します。
NSAIDsの投与をまず考慮することが多い痛みは、侵害受容性疼痛が疑われる急性の痛みです5)。その理由は、この痛みは炎症が主体と考えられるためです。
なお、投与時の注意点として、NSAIDsは上部消化管障害や腎機能障害といった副作用が起こることがあるため、長期投与は避けるべきと考えられています5)。特に、NSAIDsの副作用が高頻度に発現する可能性のある高齢者においては、注意する必要があります6)。
慢性疼痛におけるNSAIDsの役割をお示しします。慢性疼痛には疼痛感作(末梢性感作および中枢性感作)が関与していることから、侵害刺激に対して過敏な状態であると考えられます。その状態において、微小な慢性炎症が恒常的に起こっていることが、慢性疼痛の病態に関与している可能性が考えられます。そして、この点に対し、NSAIDsが慢性炎症を軽減させることで、慢性疼痛治療に寄与すると考えています。
「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」において、NSAIDsは急性腰痛に対し、推奨度1、エビデンスの強さA、慢性腰痛に対し、推奨度2、エビデンスの強さBで推奨されています。
また、「慢性疼痛診療ガイドライン」において、NSAIDsは慢性疼痛および慢性腰痛に対してご覧のとおり推奨されています。
以上を踏まえ、私の考える経皮吸収型NSAIDs「ジクトル®テープ」が適する症例をお示しします。
まず、慢性疼痛の病態およびNSAIDsの作用機序の観点から、「炎症にともなう侵害受容性疼痛を呈している症例」への使用があると考えます。
また、「多剤を内服している症例」に対しては、ジクトル®テープに置換することで内服負担の軽減が期待できます。
さらに、ジクトル®テープは全身に作用するため、「疼痛部位が多い症例」に対しても有用な選択肢になると考えます。
用法及び用量
〈腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮 痛・消炎〉
通常、成人に対し、1日1回、1枚(ジクロフェナクナトリウム として75mg)又は2枚(ジクロフェナクナトリウムとして 150mg)を胸部、腹部、上腕部、背部、腰部又は大腿部に貼付 し、1日(約24時間)毎に貼り替える。
2022年6月、「ジクトル®テープ」に「腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮痛・消炎」の効能又は効果が追加されました。
ジクトル®テープはジクロフェナクナトリウムを有効成分とする1日1回投与の経皮吸収型製剤であり、全身に作用します。このことから、以下のメリットを有しています。
・経口摂取困難な患者さんにも投与可能
・疼痛部位に貼付する必要がない
⇒高齢者などご自身で疼痛部位に貼れない方でも、貼付可能な部位に貼ることができる
⇒かぶれやすい方でも、貼付部位を変えることで皮膚への負担が分散される
第Ⅲ相長期投与試験では、腰痛症患者を対象に、ジクトル®テープ75mg 2枚(ジクロフェナクナトリウムとして150mg)を1日1回52週間反復投与したときの安全性、有効性が検討されました。
全体集団、およびNSAIDsあるいはアセトアミノフェンによる前治療の有無別の、ジクトル®テープ投与開始後のVAS値変化量の推移はご覧のとおりでした。
副作用発現割合は36.3%(49/135例)で、発現割合が2%以上であった副作用は、適用部位そう痒感21.5%(29/135例)、適用部位紅斑13.3%(18/135例)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加3.0%(4/135例)、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加が各2.2%(3/135例)でした。
重篤な副作用は、出血性腸憩室が1例でした。
投与中止に至った副作用は、適用部位そう痒感、適用部位紅斑が各2例、適用部位小水疱、出血性腸憩室が各1例でした。
副作用による死亡例は認められませんでした。
注目すべき副作用のひとつである「消化管障害」に関連する事象は5.2%(7/135例)で、その内訳は、悪心1.5%(2例)、上腹部痛1.5%(2例)、便秘0.7%(1例)、出血性腸憩室0.7%(1例)、腸炎0.7%(1例)、口内炎0.7%(1例)でした。
こちらは、ラットにおけるジクトル®テープの胃粘膜障害への影響を検討した副次的薬理試験の結果です。ジクトル®テープでは、擬似投与と比べて潰瘍長径の総和に有意差は認められませんでした。
ジクトル®テープの投与が適していると考えられる症例をお示しします。
例えば、「毎日複数枚の湿布を貼っている、疼痛部位が多い」患者さや、多剤内服の患者さんで「内服薬を増やしたくない」患者さんへの使用が考えられます。また、夜間や朝などに「内服薬の効果の切れ目を訴える」患者さん、「既存の湿布薬で効果不十分」の患者さんにも有用な選択肢になると考えます。さらに、高齢の腰痛患者さんなどの「自分で疼痛部位に貼れない」患者さんや、「かぶれは心配だが湿布を使いたい」といった湿布を好む患者さんなどには、特に使用を検討しても良いのではと考えています。
なお、ジクトル®テープの処方時には、適正使用の観点から患者さんへ以下の3点について説明しています。
・「痛い部位に直接貼らず、貼る部位が決まっています」
・「全身に浸透して2、3日で効果が出ます」
・「かぶれ予防のため毎日貼る部位を変えてください」
ジクトル®テープは局所に作用する湿布とは異なり、全身に作用する経皮吸収型製剤です。つまり、貼る飲み薬といったイメージを持つといいのではと考えています。
では、具体的に"全身性の経皮吸収型製剤"とはどのようなものかについて、有効性・安全性・簡便性の観点から説明します。
まず、同じ全身製剤でも、経口剤と貼付剤では薬物代謝経路が異なります。貼付剤は肝初回通過効果の影響を受けません。そのため、血中濃度が定常状態に達すると、その後は安定した血中濃度が期待できます。この特徴は、有効性の観点から重要であり、例えば朝方などに鎮痛薬の効果が切れて痛みが出てしまう患者さんの症状緩和が期待できます。また、安全性の観点からも、有効血中濃度領域での推移が期待できることは重要だと考えます。
簡便性の視点からは、貼り薬であるため食事のタイミングによらず投与可能であることがポイントです。
続いて、経皮吸収型製剤のNSAIDsであるジクトル®テープの使い処について、腰痛症と肩関節周囲炎を例にご紹介します。
①腰痛症の患者さんの場合
腰痛症では炎症性の痛みを取るために、まずはNSAIDsを選択することを念頭に置いています。ただし、慢性疼痛にはNSAIDsのみでは取れない非炎症性の痛みが混在していることがあります。そこで、私はNSAIDsで炎症性疼痛のベースを抑えた後、非炎症性疼痛をターゲットとした非NSAIDsを併用したり、切り替えたりしています。非NSAIDsに切り替えた場合も、炎症性疼痛が出現した際にはNSAIDsを断続的に併用しています。
このように、腰痛症の治療開始時から、場合によってはその後も断続的に使用していくことを考慮すると、NSAIDsの中でも全身性の経皮吸収型製剤であるジクトル®テープは、腰痛症患者さんの有用な選択肢になると考えています。
②肩関節周囲炎の患者さんの場合
肩関節周囲炎では、急性期にはまずジクトル®テープなどのNSAIDsを使用し、慢性期に移行した後は非NSAIDsに切り替えています。切り替え後、急性痛あるいは夜間痛が続く場合には、再度NSAIDsを併用します。維持期へ移行した後は非NSAIDsに切り替え、その後は徐々に薬剤数を減らしていくようにしています。
このように、肩関節周囲炎においてもジクトル®テープを選択肢の一つとして使用しています。
最後に、ジクトル®テープ導入時の説明ポイントを、適正使用の観点から4つに分けてご紹介します。
①「貼る場所」と「効く場所」が異なること
患者さんに必ず説明していただきたいことは、「貼る場所」と「効く場所」が異なるということです。この点を理解できるように、指導箋の絵を見せながら、「お腹に貼っているでしょう」と説明を行うことが有用です。
また、規定されている貼付部位の中から、患者さんにお勧めの場所や、反対にあまりお勧めしない場所を、図3のイラストを用いて○や△で書き込みながら説明するのもいいと思います。お勧めの場所を書き込む際に、私が考慮しているポイントは、「はがれにくい場所」であること、そして「血流が良い場所」であることの2点です。
〈腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群及び腱鞘炎における鎮痛・消炎〉
通常、成人に対し、1日1回、1枚(ジクロフェナクナトリウムとして75mg)又は2枚(ジクロフェナクナトリウムとして150mg)を胸部、腹部、上腕部、背部、腰部又は大腿部に貼付し、1日(約24時間)毎に貼り替える。
②開始後に効かないと感じてもすぐに使用を中断しないこと
血漿中ジクロフェナク濃度の推移のデータより、ジクトル®テープを使い始めてから定常状態に達するのは7日目以降と考えられます。そのため、使い始めは効かないと感じても、最低3日以上は連用してほしいということを患者さんにお伝えいただくことが重要だと考えます。
③副作用対策の方法
経皮吸収型製剤には皮膚刺激による副作用が生じることがあるため、注意が必要です。
その副作用対策として、貼付箇所のローテーションを指導していただきたいと思います。
また、保湿剤の使用をお勧めすることも良いと思います。私は、患者さんに日々のスキンケアとして保湿剤を貼付予定の場所に塗っていただくようにしています。ただし、お風呂上りに貼る場合は保湿剤があるとはがれやすくなるため、塗布を避ける必要があるということを指導しています。
④疼痛の種類によってはジクトル®テープが効かない場合があること
最後に、痛みの中にはジクトル®テープが効かない痛みがあり、その場合は薬を変更する可能性や、別の薬剤を併用することがあるということについてお話しいただくことも大切だと考えています。
私は、ジクトル®テープは薬の成分が全身をめぐることで効果を発揮するため、貼り過ぎても有効な血中濃度にはならないということを説明しています。
貼る場所が決まっていて、痛いところに貼る薬ではないということを伝えています。特に使用方法に迷われる患者さんには、例えば「上腕や胸に貼るのがお勧めです」といったように、具体的に貼る場所を指導しています。
私は、ジクトル®テープのコンセプトが、貼る飲み薬だということを患者さんにお話しします。その際に、指導箋にあるジクトル®テープをお腹に貼っている絵を見せることで、貼った場所に働くのではなく、全身に働く薬であるということが伝わるのではないかと思います。
血中濃度を一定に保つためには、規定通りに1日中貼る必要があると考えます。かぶれやすい患者さんには少しずつ貼る場所をずらしていただくなどの工夫をしています。
やはり1日継続して貼ることによって効果が得られる薬だと思いますので、貼付時間の短縮はお勧めしないようにしています。少しかぶれが生じた場合でも、他の場所に貼ることで継続できる場合もあります。そのため、貼る場所をローテーションで変えるように指導し(例えば、胸部、上腕、腹部の3ヵ所でローテーションする方法)、工夫して使っていくことが良いと思います。
貼る場所によって、かぶれの程度は違いがあります。患者さんにかぶれにくい場所を探していただくことで、続けられるようにしています。先ほどもお話ししたように、保湿剤を使うというのも一つの方法だと考えています。
急性疼痛と慢性疼痛で異なると思います。急性疼痛であれば、ある程度の期間が経つと痛みが取れますので、その場合は中止します。慢性疼痛は痛みがなくなるということは難しいため、処方を開始したらその後は継続しているケースがほとんどです。
急性疼痛は、VAS値が3未満程度になったら1日2枚の患者さんは1日1枚に減量し、中止の方向へ持っていきます。慢性疼痛に関しては、黄金先生と同じように、効果があって副作用がなければ継続して使用しています。ただし、やはり長期間のNSAIDsの投与はリスクがありますので注意が必要だと考えています。
私も前田先生と同様に、基本的にはNSAIDsは長期的に使う薬ではないと考えています。そのため、ジクトル®テープ導入後は、1日2枚を1日1枚に減量する、あるいは時々休止して症状が悪くならなければ、その時点で中止していただくようにしています。
安定した血中濃度が期待できることから、鎮痛効果の切れ目の痛みに困っている患者さんに有用だと感じています。実際、ジクトル®テープを投与した患者さんからは、「朝、痛みで起き上がるのがつらかったが、スムーズに起きて行動を開始することができた」といった声が聞かれました。
先ほどもご紹介したように、当院では既存治療で痛みが取れなかった患者さんなどに対してもジクトル®テープを処方しています。その使用経験から、ジクトル®テープは既存の鎮痛薬と遜色ないと考えています。
痛みが一日中続いており、その背景に慢性の炎症が疑われる症例に対し、ジクトル®テープは有用な選択肢の一つだと感じています。先ほど"飲む貼り薬"というフレーズを用いましたが、ジクトル®テープは経口剤でも湿布でもない、新しいコンセプトのNSAIDsという印象を持っています。
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