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開催日:2023年10月19日(木)
座長: 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座 教授 寺内 公一 先生
演者: 牧田産婦人科医院 院長 牧田 和也 先生
骨粗鬆症は、骨密度と骨質の両者を反映する「骨の強度」が低下することにより骨折の危険が増加する病気と定義されます1)。骨粗鬆症は原発性骨粗鬆症と続発性骨粗鬆症に大きく分類され2)、閉経後骨粗鬆症は原発性骨粗鬆症に含まれます(図1)。
少し古いデータですが、骨粗鬆症の有病率は年齢とともに増加し、だいたい50歳代以降に増え、60歳からは女性が圧倒的に多くなっています(図2)3)。この傾向は今も変わっていないと思います。高齢者の多くは易骨折性を有し腰部痛や背部痛を呈しますが、40歳代から60歳代の患者では明確な自覚症状を認めないことも多く、その場合には骨量測定による評価が必要です。
骨粗鬆症に対する治療法には非薬物療法と薬物療法があります2)。現在、骨粗鬆症治療薬は多種類存在しており、薬物療法を実施する際には診療科の特性や患者の年齢などを考慮して選択します。糖尿病を例として比較としますと、至近的な治療目標は、糖尿病であれば血糖値を下げることですが、骨粗鬆症の場合は骨量の維持もしくは増加です。最終的な治療目標は、糖尿病であれば合併症の予防ですが、骨粗鬆症の場合は骨折の予防となります(図3)2)。そして、治療目標を達成するために、骨量や骨代謝マーカーを測定しながら病状の診断や治療効果の判定を進めていきます。
1987年から2007年における国内の疫学調査研究では大腿骨近位部骨折の発生率が年々増加していると報告されており4)、この傾向は高齢化の進展に伴い今後も継続すると予測されます。近年、100歳以上の高齢者数は急速に増加しています。1963年に初めて調査した際に153人であった100歳以上の高齢者数は、2023年9月時点では92,139人に増加し、そのうち女性が81,589人を占めました5)。2065年頃には100歳以上の高齢者数は50万人を超過するとの試算もあります6) 。一方、健康寿命と平均寿命には10歳程度の差があることが示されており(図4)7)、人生100年を健康に過ごすうえで健康寿命と平均寿命の差の解消は大きな課題のひとつです。
人生100年時代において、女性は人生の折り返し地点ともいえる更年期を境に、エストロゲンの相対量が大きく減少します(図5)。閉経後の骨粗鬆症対策は、他人の介助なく自ら行動できる身体の維持が目標と考えられ、この目標達成にはフレイル対策が必要不可欠です。
『ホルモン補充療法ガイドライン2017年版』に記載されているホルモン補充療法(Hormone Replacement Therapy, HRT)に期待される効果と作用のうち、運動器系に関しては、骨吸収の抑制と骨密度の増加、骨折予防効果、関節保護作用、運動機能改善作用、姿勢バランスの改善作用が挙げられています(図6)8)。
HRTの骨折予防効果に関しては、差し迫った骨折リスクを有する高齢者では短期間での評価が比較的容易である一方、骨折リスクの低い更年期世代以前の若年層では将来的な骨折に対するHRTの予防効果を短期間で評価することが困難という課題もあり、今後、HRT骨折予防効果に関する中長期的な追跡調査を実施していくことが求められます。
人生100年時代において更年期は女性の一生の折り返し地点であり、更年期以降は、加齢性疾患や低エストロゲン状態に起因する疾患への対策が重要と考えます。閉経後骨粗鬆症に対しては長期的に有効な骨折予防対策が必要であり、今後はHRTの予防的作用や継続期間に関するさらなる検討が求められます。
開催日:2023年10月19日(木)
座長: 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座 教授 寺内 公一 先生
演者: 東京歯科大学市川総合病院産婦人科 准教授 小川 真里子 先生
産婦人科では、うつ症状を訴える更年期女性が来院することは珍しくありません。うつ病の発症率には性差があり、女性は男性の約2倍です。この性差は初経後に現れ始め、閉経前後の更年期の時期に最も顕著になります1)。
更年期の女性を診療するとき、実は更年期ではなく、うつ病なのではないかと思うことはしばしばあります。そのようなケースでは精神科の受診を勧めることが多いと思いますが、うつ症状を訴える更年期女性は精神科受診を拒否する場合も多く、無理に説得を試みると精神科のみならず産婦人科も受診拒否に陥ってしまう可能性があります。このような事態を防ぐためにも、更年期女性のうつ症状に対しては慎重な対応が求められます。
更年期の気分障害は、更年期症状としての「抑うつ気分」または「抑うつ症状」と、「うつ病」に大別され、抑うつ気分、抑うつ症状についてはホルモン補充療法(HRT)により改善が期待されます(図1)2)。
抑うつ気分はうつ病の症状の一つであり、抑うつ状態はうつ病の診断基準を満たさないもののうつ症状を呈している状態です(図2)3)。抑うつ状態は厳密には精神科の治療対象とならないため、産婦人科を含む身体科での対応が求められる場合もあります。一方、うつ病は、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5により診断されます。非精神科医がうつ病を診断する際は、診断に必須となる「抑うつ気分(図3の①)」、「興味または喜びの喪失(図3の②)」の2週間以上の継続を確認したうえで他項目を評価することが推奨されます。
また、うつ病の発症には「脳」と「環境」が関与しており、ストレスになる出来事が重なると、脳機能の変化、否定的なものの見方が引き起こされてさらなるストレスや不安から悪循環が形成されます3)。更年期にみられるうつ病の多くは、同時にホットフラッシュなどの更年期症状があることが多いと思いますので、そういったストレス要因になっている更年期症状を軽減することも、うつ病の治療のうえでは重要といえます。
2022年に発表された北米閉経学会(NAMS)のPosition Statementにより、ホルモン療法は、閉経後の女性のうつ病には無効なものの、うつ症状を有する周閉経期の女性やうつ病ではない更年期女性には有効とするエビデンスが示されました4)。
さらに同Statementでは、172例の周閉経期女性を対象としたプラセボ対照無作為化比較試験の結果5)に基づき、経皮エストラジオールと天然型プロゲステロンの周期投与が無症状の周閉経期女性においてうつ病の発症を予防する可能性に言及しています4)。本試験5)では、経皮エストラジオールと天然型プロゲステロンを投与した群において、プラセボと比較してうつ病の指標であるCES-Dスコアが有意に低いことが示されました(p=0.03、ロジスティック回帰分析)。また、閉経移行期早期ではHRT施行群でCES-Dスコアが低い一方、閉経後ではその差が縮小傾向にありました5)。
これまでの話を踏まえて、産婦人科などの身体科での更年期女性のうつ症状への対応を考えます。うつ病の診断基準に該当し緊急性が高い場合は精神科への紹介が必要ですが、患者が精神科受診に拒否的な場合や抑うつ状態である場合は更年期障害として治療を検討することが重要と考えます(図4)。そして、治療無効または増悪の場合に、関係性を確立したうえで精神科受診を勧めます。なお、自殺リスクが高い場合は緊急性ありと判断されます3)。自殺念慮および自殺企図の有無を確認し、自殺リスクが高いと考えられる場合は精神科の受診が必要です。
精神科へ紹介する際は、患者への丁寧な説明が求められます(図5)3)。「身体的な問題が見いだせないため精神科を受診してください」と伝えるだけでは、「かかりつけ医に見捨てられた」と捉えられかねません。「専門家の助言も聞いてみましょう」「主治医が変わるわけではありません。身体の症状は引き続きみていきます」のような声かけにより、今の主治医と精神科医が協力して心身両面を支える姿勢を示すことが大切です3)。
女性にとって更年期はうつ病発症に注意が必要な時期です。うつ症状を呈する状態にはうつ病と抑うつ状態があり、抑うつ状態に対するHRTは更年期症状を緩和しうつ症状を軽減させる可能性があります。産婦人科医としては、うつ病として速やかな治療が必要であるかを判断したうえで、更年期女性に対して寄り添う姿勢も重要と考えます。
開催日:2023年10月19日(木)
座長: 愛知医科大学産婦人科学講座 主任教授 若槻 明彦 先生
演者: 飯田橋レディースクリニック 理事長 岡野 浩哉 先生
診療時に認知機能や集中力・能率の低下を訴え、認知症の可能性を懸念する更年期女性は稀ではありません。ホルモン補充療法(HRT)と認知機能の関係について、2022年に北米閉経学会(NAMS)が発表したPosition Statementでは、閉経後早期にHRTを開始すると認知機能に対して有益ですが、閉経後後期からのHRT開始では認知機能低下に対するリスクが高いとするタイミング仮説が示されています1)。
このタイミング仮説について検討した報告は複数存在しています。閉経後早期女性を対象にHRTと認知機能の関係を調査した3つの無作為化比較試験(WHIMSY、KEEPS-Cog、ELITE-Cog)では、いずれにおいてもHRTによる認知機能に対するベネフィットおよび、リスクはともに確認されませんでした(表1)2-4)。また、現在までのさまざまな報告から、早発卵巣不全(POI)患者と閉経後早期HRT開始症例と閉経後後期HRT開始症例の3者を、各疾患における特性で比較しまとめると、表2のようになります。
2022年に報告されたHRTの総説では、認知機能に関するHRTの臨床的推奨について言及されました5)。この総説では、認知機能やアルツハイマー病(AD)の予防や治療に対するHRTはほとんど推奨されていませんが、周閉経期または閉経直後の女性への認知機能障害に対する治療にHRTは推奨できる可能性が示されています。
認知症を呈する原因疾患としてはADが約6割を占めます6)。ADは、脳実質へのアミロイドβの蓄積と神経細胞内のリン酸化タウタンパクの蓄積による神経細胞死から脳萎縮が生じる進行性の神経変性疾患です。AD発症リスクの遺伝誘因にはアポリポタンパクE(APOE)があり、APOEε4対立遺伝子の複製を1つ有する場合のAD発症リスクは3倍に、2つ有する場合は10倍に高まります6)。また、ADは性差を認める疾患であり、女性が7割を占めます6)。
先述のNAMSのPosition Statementでは、ADに関しても認知機能と同様にHRTに関してのタイミング仮説が支持されていますが1)、根拠が脆弱であり研究結果の不一致が存在しています。2023年1月に発表された欧州アルツハイマー型認知症予防コホート研究では、閉経後早期からのHRTはADリスクを有するAPOEε4を有する女性の認知機能の改善と脳容積の増加に関連している可能性が示されました7)。一方、2023年6月に発表されたデンマークの大規模な症例対照研究では、HRT施行期間にかかわらず、閉経後早期からHRTを開始しても認知症のリスクは増加することが報告されました8)。この結果に関しては、HRTと冠動脈疾患について、タイミング仮説で有名なDr. JoAnn Manson が「複数の無作為化比較試験(WHIMSY、KEEPS-Cog、ELITE-Cog)の結果と矛盾しており、方法論的な懸念があることからHRTと認知症リスクの因果関係を推測するために使用すべきではない」とするコメントを発表しています9)。
近年、性別、閉経、閉経年齢と脳内のタウタンパク沈着、脳容量、認知症発生との関係を調査するために画像診断機器を用いた研究が盛んに行われています(表3)。閉経後女性を閉経時年齢別に解析した研究では、閉経後女性は同年齢の男性に比し、またアミロイドβが上昇している対象において閉経年齢が早いほど、リン酸化タウタンパク蓄積が多く10)、灰白質容量が減少している11)ことが報告されており、閉経年齢が早いほど認知症発症リスクが高まる可能性が示されています。逆に閉経年齢が遅い場合は灰白質容量が大きく、認知症発症リスクが低いとする報告もあります12)。
HRTまたはHRT開始時期と脳内タウ沈着、脳容量、認知症発生との関係を調査した結果も複数報告されていますが(表4)、HRTの認知症発症リスクに対する影響については一定の見解が得られていません。ただし、閉経後早期からのHRTが脳の構造や認知能力に良い影響も悪い影響も与えない点は多くの研究で一貫しています。
現時点ではHRTが認知機能低下やADを予防するという明確な根拠は見いだされていません。しかし、HRTにより更年期障害が緩和され、QOLが向上することで生活習慣の改善につながり、結果として認知機能に良い影響を与える可能性は考えられます。今後は、HRTの作用に複合的な要因が関与している点も考慮したさらなる検討が求められます。
開催日:2023年10月19日(木)
座長: 愛知医科大学産婦人科学講座 主任教授 若槻 明彦 先生
演者: 目白乳腺クリニック 院長 緒方 晴樹 先生
乳癌は女性において罹患数が最も多い癌ですが、罹患数に対して死亡数は比較的少ないという特徴があります。2019年の乳癌罹患数は97,142人、2020年の乳癌での死亡数は14,650人でした(図1)1)、乳癌罹患数は60~69歳でピークを迎えますが、近年は閉経前後の働き盛りの女性での罹患も増加しています(図2)。
乳癌発生部位である乳腺は女性ホルモンの標的臓器であり、女性ホルモンは乳癌に深く関与しています。多くの乳癌細胞はエストロゲン受容体やプロゲステロン受容体を発現しており、エストロゲンやプロゲステロンが核内の各受容体に結合することで、癌の発育を促します。サブタイプ分類では、女性ホルモン受容体を有する乳癌はLuminal AまたはLuminal Bタイプに分類され、比較的分化度が高く乳癌の80%以上を占めます。
『乳癌診療ガイドライン 2疫学・診断編 2022年版』では、有子宮女性への長期間のエストロゲン+黄体ホルモン併用(E+P)療法が乳癌発症リスクを増加させること、子宮摘出後女性へのエストロゲン単独(E)療法も乳癌発症リスクを増加させる可能性があることが指摘されています(図3)2)。ただし、2016年に発表されたホルモン補充療法(HRT)に関する国際的なコンセンサスでは「乳癌発症リスクに及ぼすHRTの影響は小さく、座ってばかりのライフスタイルや肥満、アルコール摂取といった一般的な要因による増加と同等かそれよりも低い」とされています3)。
また、HRTは確かに乳癌のリスクファクターの一つですが、その相対危険度は1.1~2.0と、高齢初産(30歳超 )や早い初潮(11歳未満)など他の様々な要因の相対危険度と同程度です4)。閉経後の高濃度ホルモン値、高濃度乳腺(いずれも相対危険度は2.1~4.0)や、年齢、乳癌に関係する遺伝子変異(いずれも相対危険度は4.0超 )などのように、HRTよりも相対危険度が高い要因も複数存在します。
これらを考慮すると、更年期女性のQOL向上のためには、乳癌発症リスクを懸念してHRTを回避するのではなく、HRTを実施してその恩恵を享受しつつ定期的な乳癌検診によりケアをしていくことが重要であると考えます。
HRTと乳癌発症に関する研究は以前より進められており、Women's Health Initiative Observational Studyでは米国で実施された二つの大規模臨床試験の統合解析結果が示されています(図4)。中間解析の結果、乳癌発症リスクは、E+P療法群ではプラセボ群と比較して増加し5)、E療法群ではプラセボ群と比較して減少することが確認され、その後両試験で投与を中止して観察が継続されました6)。 本試験の追加報告では、平均18.9年または16.2年の長期観察期間中、乳癌発症リスクはE+P療法群で上昇し、E療法群では低下していました7)。
近年は新たな知見も加わっています。2019年に報告された臨床試験58件のメタアナリシスでは、E+P療法の乳癌発症相対リスクは使用期間に伴い上昇することが示されました8)。また、5~14年のE+P療法の乳癌発症相対リスクは黄体ホルモンの間欠的投与時より連日投与時で高く、黄体ホルモンの投与方法により乳癌発症相対リスクが異なっていました。なお本研究ではE療法においても乳癌発症相対リスクが上昇していました。
さらに、2020年に報告された英国の症例対照試験では、E+P療法またはE療法の長期実施により乳癌発症リスクが上昇することが示されました9)。本研究では、乳癌発症リスクはHRTの種類によって異なり、同リスクは併用治療の有無や長期間の使用であるほど高まることも報告されました。
最近の新たな報告を加味しても、乳癌発症リスクに及ぼすHRTの影響はライフスタイルや肥満といった一般的なリスク要因と同等であるとの見解に、大きな変更はないと考えられます(図5)。ただし、HRTの薬剤選択や投与法、投与期間により乳癌発症リスクが異なる点を念頭におき診療にあたることが求められます。
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